「今年はうまくいった」で終わってしまう取り組みが、学校にはたくさんあります。
この記事では、生徒会活動を担当者が代わっても続く形にするために何が要るのかを、全国大会で2人の助言者が語った内容と、その場で交わされたやり取りからまとめます。
書いているのは、東京都の公立中学校で数学を教えている現役の教員です。2026年8月7日・8日に開かれた第70回 全国特別活動研究協議大会 東京大会に参加し、勤務校の実践を発表してきました。
01. 結論:続かない原因は、熱意ではなく「記録」と「仕組み」
先に結論を書きます。
取り組みが1年で消えるのは、熱意が足りないからではありません。 むしろ逆で、熱意だけで走ったものほど、その人がいなくなった瞬間に止まります。
大会で助言に立った2人の先生が、別々の場面で、ほとんど同じことを指摘していました。
ひとりは、制度は教師側の文化を変えないと長続きせず、担当者が変わった瞬間に元に戻ってしまうと話しました。
もうひとりは、研究発表の年はいろいろなことをやるけれども、その次の年にはなくなっている。これが40年ほど変わっていないと話しました。
40年、という言葉が刺さりました。つまりこれは、個々の先生の頑張りの問題ではなく、学校という組織が構造的に抱えている課題だということです。
そして2人が示した処方箋は、どちらも精神論ではありませんでした。
- その時の思いを明文化して、語り継げる形にする
- 生徒の側ではなく、職員室の文化のほうを変える
この記事では、この2つを具体的にどう実行するかを見ていきます。
同じことで悩んでいる先生と話せる場所があります。全国の中学校の先生が実践や悩みを持ち寄っています。読むだけの参加でも大丈夫です。
02. 全国大会で、2人の助言者が別々に同じことを言った
第70回 全国特別活動研究協議大会 東京大会は、令和8年8月7日・8日の2日間、国立オリンピック記念青少年総合センターで開かれました(主催:全国特別活動研究会)。
2日目、勤務校の生徒会活動の実践を発表しました。その内容は別の記事にまとめています。
この記事で書きたいのは、発表の後に起きたことです。
午前と午後、それぞれ助言者の先生が指導助言に立ちました。長く現場を見てこられた方々です。
この記事で書き残しておきたいのは、実践への評価そのものよりも、そこから先の話でした。「この取り組みは、この先どうなるのか」という話です。
午前の助言:仕組みは変えられた。では、その先は
午前の助言では、本校の実践について、奇をてらった実践ではないが、本質的で大事な実践だという評価をいただきました。
理由として挙げられたのは、個々の活動を盛り上げたのではなく、選挙・生徒総会・学校委員会・校則改定という別々のものを「つないだ」点でした。
生徒会活動を活発にした実践は今までも数多くある。けれども参画の構造そのものを作り替えた実践は、それほど多くない、と。
とくに指摘されたのが、発表資料にあった「生徒会本部は統括」という言葉でした。本部が全部やるのではなく、全校生徒の参画をマネジメントする側に回る。この発想の転換が大きい、という評価です。
そのうえで、こう続きました。制度は、教師側の文化を変えないと長続きしない。担当者が変わった瞬間に元に戻ると。
午後の助言:40年変わらない課題
午後の助言では、もっと直接的でした。教員側の「永遠の課題」として並べられたのは、次のようなものです。
- 時間がない
- 負担が大きすぎる
- 担当者が変わると、その取り組みも終わる
- 学年によってやることが違う
そして、こう言われました。これが40年ぐらい変わらない、と。
研究発表の指定を受けた学校は、その年はいろいろなことをやってくれる。けれども翌年にはなくなっている。熱しやすく冷めやすい、という傾向がある、と。
別々の場面で、独立に、同じ場所を指していました。 これは偶然ではないと思います。
03. 会場から出た質問:「最初のミニマムな突破口は、何ですか」
協議会では、参加者からの質問が続きました。その中で、いちばん記憶に残っている質問があります。
首都圏の中学校から来られた先生でした。その方は、自分の学校の状況をこう説明しました。
荒れているわけではない。むしろ大人にとっては、いい学校と言える。 ただ、何も起こらないことが目標になってしまっているところが、正直ある、と。
会場から笑いが起きました。笑えるということは、その場にいた多くの先生が思い当たったということです。
その先生の説明は、さらに具体的でした。
- 誰も自分の教育観を押しつけない。その意味では職員室の仲はいい
- ただしそれは、必要以上に関わらないという仲の良さ
- 働き方改革の流れもあり、「余計なことを始めるくらいなら行事を減らそう」という空気がある
- 生徒会選挙も「選挙管理委員会がかわいそうだから、デジタルにしたら一発じゃないか」という話が出る
コスパやタイパのほうに大人の意識が向いている、と。
そのうえで、そこを突破することで学校が崩れてしまうのではないかという、これまで作ってきた先生方の不安も分かる気がする、とも語られました。
そして最後に、こう質問しました。
最初のミニマムな突破口は、どういうものがありますか。
この質問が示していること
この先生は、「やりたいことがない」わけではありませんでした。やりたいことはある。でも、最初の一歩が分からない。
そして、変えることのリスクまで見えている。だから動けない。
これは、全国の職員室にあるものだと思います。保護者対応で消耗し、何も起きないことが目標になり、耐え忍ぶことが日常になる。その状態から、どう最初の一歩を踏み出すか。
(保護者対応で消耗している状況については、別の記事に詳しく書いています)
「最初の一歩が分からない」は、一人で考えても答えが出にくい問いです。中学校てらすには、同じ問いを持った先生が集まっています。
04. その場で出た、4つの答え
この質問に対して、その場で複数の答えが出ました。整理すると4つです。
答え1:まず、自分がチャレンジする姿を見せる
やれるかどうか分からなくても、「これをやりたいんですが、やっていいですか」と管理職に聞きに行く。その姿勢そのものを、周りに見せる。
このとき大事なのは、他の先生に負担がかからない形にすることです。「他の方が大変になるなら、絶対にやりません」と最初に言い切る。
答え2:みんなが「やったほうがいいけど面倒だ」と思っていることを引き受ける
全員が必要性を感じているのに、誰も手を挙げないものがあります。それを引き受ける。 しかも、楽しそうに。
これは信頼の作り方の話でもあります。新しいことを提案する前に、既にある面倒を引き受けている人の言葉は、通りやすくなります。
答え3:絶対に1人で動かない
これは、その場でいちばん強く言われたことでした。絶対に1人で動いてはいけない。何人かで動かし始めたほうがいい、と。
集めるのは、楽しそうな人と、分かってくれそうな人です。全員を説得する必要はありません。年齢や感覚が近い人、部活が同じ人——きっかけは何でもいい。
答え4:職員室の人間関係を、先に作る
これがいちばん時間のかかる答えでした。
発表者はこう説明しました。シンプルにやったことは、仲良くなることだと。全員と気が合うわけではないし、意見がぶつかることもある。正直、腹が立つこともある。それでもぐっとこらえて、立場に関係なくフラットに話せる状態を作る、と。
相談しやすい、相談されやすい関係を先に作っておく。そのうえで生徒会に取り組み始める。
そして、1年目にはできなかったとも言っていました。動き出したのは2年目からだ、と。
ここは正直に書いておきたいところです。 4つのうち3つはすぐ試せますが、4つ目には年単位の時間がかかります。
05. 正直に書きます。残すための工夫を、私は何もしてこなかった
ここまで、助言と会場のやり取りを書いてきました。では自分はどうだったのかを書きます。
結論から言うと、残すための工夫を、私は何もしてきませんでした。
この2年ほどで、勤務校ではいろいろなことを変えてきました。
- 生徒会選挙そのものの時期は変えず、選挙のための準備期間を7月中旬から5月中旬へ前倒しした
- 選挙の前に、生徒がこれまでの選挙を振り返るためのワークシートを教員側で作った
- 投票を紙にするかデジタルにするかを、生徒の意見を聞いたうえで決めた
- 学校委員会の生徒に意識調査を行い、5つの項目でスコアを取り始めた
- 校則のうち、気温や衣類の変化で意味を失っていたものは大人の側で先に変えた
- 意見が割れそうな髪型については生徒に委ね、2週間の試行期間を置いた
どれも、それなりに手間をかけて設計したものです。
けれども、これらを「なぜそうしたのか」は、どこにも書いていません。
ワークシートの設問をなぜあの順番にしたのか。意識調査の5項目をなぜその5つにしたのか。校則のどれを大人が決め、どれを生徒に委ねるかを、何を基準に分けたのか。判断の理由は、全部、自分と代表の頭の中にあります。
手順書なら作れます。実際、資料は残っています。ただ、大会で言われていたのはそこではありませんでした。
制度は教師側の文化を変えないと長続きせず、担当者が変わった瞬間に元に戻る。
手順は残る。判断基準が残らない。 だから次の人は、少し状況が変われば判断できず、結局もとのやり方に戻る。
言われてみれば当たり前のことでした。当たり前のことを、2日間かけて外から言われるまで、自分では気づいていませんでした。
参考:助言者自身がやっていたこと
参考として、助言者の先生がご自身の実践として挙げていた方法を書いておきます。
生徒会の新入生歓迎会で、毎年同じ演劇をやるという方法です。
「この学校にはこういうことがあって、この先輩がこうして……」という内容を、演劇の形にして毎年繰り返す。そうすることで、最初にあった熱量を、形にして保つ。
その演劇は20年ほど続き、今もやっているとのことでした。
文書に残すだけでは読まれません。毎年必ず実行される行事の中に埋め込む、という発想でした。
06. なぜ気づかなかったのか
言い訳をすると、目の前のことが常に動いていました。
選挙が終われば生徒総会があり、そこが終われば校則の話し合いがある。ひとつ形になれば、次にやりたいことが見えてくる。面白くなってきた時期ほど、前だけを見ています。
「これを次にどう渡すか」は、渡す日が決まって初めて自分の問題になります。それまでは、頭では分かっていても、優先順位が上がりません。
ただ、それは言い訳の半分でしかありません。
もっと正確に言うと、後継者を育てるという発想が、そもそも自分になかったのだと思います。
引き継ぎというと、資料を作って渡すことだと思っていました。人を育てることだとは考えていませんでした。 一緒にやる人を増やそうとはしていたけれど、それは今年の活動を回すためであって、「自分がいなくなった後にこの人が判断できるように」という視点ではなかった。
大会で「40年変わらない」と言われたとき、その40年の中に自分も入っていると思いました。特別なことではなく、みんなここでつまずいてきたのだ、と。
07. 残った例もある——異動する先生が、後輩から言われた言葉
大会では、もうひとつの実践発表もありました。その先生は、異動する前の学校での取り組みについて話されていました。つまり、生徒会を動かしている途中で異動を経験された方です。
異動が決まったとき、残る後輩の先生から、こう言われたそうです。
先生が考えていらっしゃることは、こういうことですよね。これとこれを残していけばいいですよね。
4月からは、我々に任せてください。
この話を聞いたとき、これが答えなのだと思いました。
注目したいのは、後輩の先生が「何を残すか」を自分の言葉で言えていることです。「先生のやり方を続けます」ではありません。何が本質で、何が形だったのかを、残る側が判別できている。
ここまで来ていれば、担当者が代わっても戻りません。逆に言えば、ここまで来ていなければ、どれだけ立派な引き継ぎ資料を作っても戻ります。資料は手順を伝えますが、「何を残すべきか」の判断までは伝えないからです。
助言で言われた「思いを明文化して語り継ぐ」は、文書を作ることではなかったのだと思います。残る人が、自分の言葉で言い直せる状態にすることでした。
そのためには、日頃から「なぜこれをやっているのか」を、周りに話し続けているしかありません。手順の共有ではなく、判断基準の共有です。
「何を残すべきか」は、一人では言語化しにくいものです。他の学校の先生に話してみると、自分でも整理がつくことがあります。
08. 私も、いつかこの学校を離れる
ここまで、助言者の話と、会場でのやり取りを書いてきました。他人の話として。
最後に、自分の話を書きます。
私も、いつか必ずこの学校を離れます。
公立学校で働いていれば、当たり前のことです。分かっていたはずでした。それでも大会で語られていた「担当者が変わった瞬間に元に戻る」「40年変わらない」という話は、聞いているうちに他人事ではなくなりました。自分がその「変わる担当者」の側だからです。
生徒会本部の役割を変え、選挙のやり方を変え、校則の改定を生徒の手に渡し、職員室の空気を変えようとしてきました。うまくいったこともあります。それが、自分がいなくなった後に残るのかどうかは、正直なところ分かりません。
そして、これは私だけの話ではありません。公立学校で働いている以上、いま一緒にやっている人も、いつかは必ず異動します。 誰かが抜けたときに崩れる仕組みなら、それは早いか遅いかの違いでしかありません。
大会でいただいた助言は、そのまま自分への宿題になりました。
- 仕組みにしたか。(個人の力量で回していないか)
- 明文化したか。(次の人が読んで再現できるか)
- 職員室の文化になったか。(担当が代わっても、周りが続けようとするか)
3つ目が、いちばん難しい。助言でも「ここが一番難しいところだと思います」と言われました。
それでも、この3つを問い続けることしかないのだと思っています。
09. 明日から試せること
- 一緒にやっている人に、「これ、何のためにやってると思う?」と聞いてみる。 相手が自分の言葉で答えられるなら、もう残っています。答えられないなら、そこがこれからの仕事です
- 「なぜこれを始めたか」を、記録に一行足す。 手順は残っても、動機は残りません。次の人が判断できるのは動機のほうです
- いま担当している取り組みを、A4一枚で説明できるか書いてみる。 書けないなら、それは自分の頭の中にしかありません
- 一緒にやる人を、1人だけ見つける。 説得しやすい人ではなく、楽しそうにやってくれそうな人を
- 毎年必ず実行される場(始業式・新入生歓迎会・生徒総会など)に、取り組みの由来を語る時間を埋め込む
まとめ
全国大会で、2人の助言者が別々に同じことを言いました。担当者が変わると、取り組みは元に戻る。40年変わっていない。
会場からは「最初のミニマムな突破口は何ですか」という質問が出ました。答えは、1人で動かないこと、面倒を引き受けること、そして職員室の関係を先に作ることでした。
そして、残った例もありました。異動する先生に、後輩が「これとこれを残せばいいですよね。4月からは我々に任せてください」と言った学校です。残る側が、何を残すべきかを自分の言葉で言えている。 そこまで来ていれば、担当者が代わっても戻りません。
私自身も、いつかこの学校を離れます。自分が「変わる担当者」の側だと意識したとき、この課題の重さが初めて分かりました。
同じことを考えている先生と、話してみませんか。
全国の中学校の先生が、実践や悩みを持ち寄っています。読むだけの参加でも大丈夫です。
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この記事を書いた人
運営メンバー:たけ
公立中学校教員・数学科/東京都/教員歴20年。国立教育政策研究所で全国学力調査に3年間携わった経験を経て現場へ。帰り道15分のボイスメモとAIとの壁打ちから、学級通信「なかま」を日々綴っている。
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