生徒に任せたいのに、任せたら学級が回らない気がする。主体性を育てたいのに、放っておくと何も進まない——その手前に、抜けている一段があります。中学校てらす代表のあおが整理した「信頼を育む4つの柱」を、現役の中学校教員の目線で、明日から試せる形にほどきました。
この記事の結論
「任せる」は、信頼が先にあって初めて成立します。 順番が逆になっているだけのことが多い。
信頼は生まれつきの相性でも、時間が経てば勝手に育つものでもありません。あおは、信頼が生まれるまでに4つの段階があるのではないかと整理しています。
① 会話 ── 日常の「心地よい空気」
↓
② 体験 ── 正解のない活動を一緒におもしろがる
↓
③ 関係性 ── 多様性をそのままケアする
↓
④ 対話 ── ジャッジをやめ、納得解を見つける
↓
信 頼 ── 生徒と教員/生徒同士/教員同士
矢印を引きましたが、この順に進まなければいけないわけではありません。あおは「どの項目から始めてもいい。でも、すべてが不可欠です」と書いています。
そして、4つとは別に、絶対に外せないものがもう1つあります。記事の最後に置いた「小さな成功を積み重ねること」です。ここが実は一番効きます。
この記事は、あおがnoteに書いた「信頼を育む『4つの柱』:何からはじめ、どう深めるか?」
をもとに、中学校てらすの運営メンバーで現役中学校教員のたけが構成しました。
① 会話:大きな設計より先に、たわいない話がある
「生徒主体の学校づくり」を目指そうとすると、つい大きなビジョンや制度設計から入りたくなります。学級目標、生徒会改革、行事のねらい。どれも大事です。ただ、順番が早すぎることがあります。
あおが挙げているのは、成果を出すための会話ではない、日常的なコミュニケーションのほうです。たわいのない「インフォーマルな対話」。それを積み重ねることで、教室や職員室に「この場にいても大丈夫だ」という安心感が生まれ、それが信頼の土台になる、という順序です。
なぜ制度設計から入ると空回りするのか
制度は「守るもの」として受け取られます。守るものを増やしても、安心は増えません。安心がないところで「主体的にやっていいよ」と言われても、生徒は動きません。動かないのではなく、動いて大丈夫かどうかが分からないからです。
明日から試せること
- 朝の会・帰りの会で、連絡以外の話を30秒だけ入れる(週に2回でいい)
- 廊下ですれ違ったとき、用事がなくても一言かける
- 職員室で、その日の困りごとを1つだけ同僚に言ってみる
「もっと面白いことをやりたいのに、打開策が見つからない」
そんな話を、同じ立場の先生とできる場所があります。中学校てらすの無料LINEオープンチャットは、登録だけで読めます。
② 体験:「何を言ったか」ではなく「何を一緒に成し遂げたか」
ビジョンを共有したら、次は行動です。あおの言葉では「体験」。
ここで効くのは、正解のない共通の活動です。実践的なプロジェクトや協働学習といった体験のサイクルを通じて、生徒も先生も「自分たちの手で環境を変えられるんだ」という手応えを掴む。それがチームとしての信頼に変わっていく、という筋道です。
「正解のない」がポイント
答えが決まっている活動は、体験ではなく作業になります。作業をいくら一緒にやっても、信頼にはなりません。誰がやっても同じだからです。
逆に、正解が決まっていない活動は、生徒の判断が結果に出ます。そこで初めて「自分たちがやった」という感覚が生まれます。
明日から試せること
- 行事の準備で、結論だけ決めて、やり方は生徒に渡す
- 教員が正解を持っていない問いを、1つだけ授業に混ぜる
- 学級の困りごとを、教員が解決せずに学級会に持っていく
③ 関係性:成果を中心に置くと、信頼は続かない
成果やビジョンを中心に据えるだけでは、信頼は持続しない、とあおは書いています。理由は、一人ひとりの「個性の尊重」が、そのビジョンをリスペクトすることに直結するからです。
ここは読み飛ばしやすいところですが、実は一番裏切られやすい柱です。成果が出ているうちは関係が良く見えます。出なくなった瞬間に崩れるなら、それは信頼ではありません。
多様性を「そのまま」ケアする
対応を変えることと、扱いを変えることは違います。互いを一人の人間としてリスペクトする——その関係性のケアが、信頼のサイクルを強くします。
明日から試せること
- 活躍していない生徒の名前を、1日1回は呼ぶ
- 成果が出た場面で、関わった全員の役割を言葉にする
- 「できるようになったこと」ではなく「変わったこと」で声をかける
「うちの学校ではどうだろう」と思った方へ
他校の先生がどうしているかを、そのまま聞ける場所があります。
④ 対話:学校で起きているのは、たいてい「ジャッジ」
4つ目が、いちばん耳が痛いところです。
学校でよく起きているのは、白黒はっきりさせる「ジャッジ」であり、それは対話とは対極にあるものだ、とあおは指摘しています。
生徒指導の場面を思い浮かべると分かりやすい。どちらが悪かったかを決めて終わる。決着はつきますが、納得は残りません。
「聞く」と「深い傾聴」は違う
相手の声をただ聞くのではなく、深い傾聴と、謙虚な姿勢での視点の共有。ジャッジをやめた対話は、組織が自走し始める最初の一歩になります。
ここでの目標は、正解ではなく納得解です。全員が完全に納得することはありません。「決め方には納得した」で十分です。
明日から試せること
- 指導の場面で、結論を出す前に「どう見えていたか」を両方から聞く
- 学級会で、教員は最後まで結論を言わない
- 決まらなかったときに「今日は決めない」を選択肢に残す
そして、いちばん効くのは「小さな成功」
4つの柱と並べて、あおが「絶対に外せない」と書いているのがこれです。
いきなり校則を全部変えるような大きな挑戦でなくていい。日常の小さな「変えられた」「自分たちで決められた」という体験の積み重ねが、生徒の自己効力感を育んでいく——。
大きな挑戦は、失敗したときの傷も大きい。 小さく始めるのは妥協ではなく設計です。
大きく始める 小さく始める ──────── ──────── 校則を全部見直す 教室の掲示を1枚変える 行事を作り替える 並び順を生徒が決める ↓ ↓ 失敗すると 失敗しても 「やっぱり無理」 「次はこうしよう」 が残る が残る
実践:ジャッジをやめて、話を聞いてみた
4つの柱のうち、私が学級経営や数学の授業で特に意識しているのは③関係性と④対話です。
条件付きで認める「ほめる」は、あまりしていません。ありのままの今のその子を認めることを意識しています。そうすることで、まず子どもにとっての心理的安全性を高めたいと考えているからです。
たとえば、帰りの会や全体で話を聞く場面で、そわそわしたり、指導を受けているときに目を合わせられなかったりする生徒がいます。そういうとき、その場で注意するのではなく、何気ないタイミングで「そういうときって、どんな感じなの?」と聞くようにしています。ある生徒は「話は聞いているんです。でも体が動いちゃって、じっとしていると逆に話が入ってこなくて……」と話してくれました。なるほど、と腑に落ちました。そこから「集中しないといけない場面では、どうしようか。私と話しているときは気にしないけど、他の先生方にも分かってもらえるといいよね」と一緒に考えるようにしています。
もし理解を示さないまま「じっとしなさい」「前を向きなさい」と言い続けていたら、その子はもっと不安になり、落ち着けなくなり、自己肯定感も下がっていたのではないかと思います。
その後、関係はしっかりつながり、苛立つ場面は少なくなりました。それでも、私のほうが立て続けに注意してしまったときは、その子が不満げな態度を見せることもあります。「あ、やってしまった」と思う瞬間ですが、基本的な安全性が確保できていると、そこから立て直すのも早いと感じています。
うまくいかなかったこと:頭では分かっていても、時間がないときや、どうしても大事な話を先に進めたいときは、つい焦って注意してしまうことがあります。それでも、コツは「問題が起きていないとき」にこそ注目し、落ち着いた場面で本音を聞くことなのだと、この経験から学びました。
明日から試せること(まとめ)
- 朝の会に、連絡以外の話を30秒だけ入れる
- 行事の準備で、結論だけ決めてやり方は生徒に渡す
- 活躍していない生徒の名前を、1日1回は呼ぶ
- 学級会で、教員は最後まで結論を言わない
- 変えるものを1つだけ選ぶ。掲示1枚でいい
5つ全部やろうとしないでください。 1つ選んで、2週間続けるほうが効きます。
まとめ
信頼は、任せる前に要るものです。そして、待っていても育ちません。会話・体験・関係性・対話——どこから入ってもいい。ただ、小さな成功を積み重ねることだけは、外さないでください。
同じことを考えている先生と話してみませんか
中学校てらすは、そのための場所です。
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執筆者
たけ。現役の中学校教員。担当教科は数学。生徒指導・生徒会を担当。中学校てらすの運営メンバーとして、ホームページを担当しています。
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