「なんでそんなん、そんなことするの」——子どもの行動にそう思ったとき、正すか、急かすか、諦めるか。その3つ以外の選択肢を、中学校てらすが定期開催している「なんでそんなん楽会」に集まったエピソードから考えてみます。
01. 「なんでそんなん楽会」とは
中学校てらす代表のあおが継続的に開いている交流会で、参加者が「上半期、印象に残った“なんでそんなん”な出来事」を持ち寄る夜会です。第8回では、大学教員・児童館職員・学校づくりの実践者など、立場の異なる参加者から3つのエピソードが共有されました。共通していたのは、「正そうとしない」「急かさない」「まるごと受け止める」という姿勢が、大人の想定を超えた動きを引き出していたことです。
02. 「ローマ字プロンプト事件」——怒らず、関係を切らなかった話
ある大学教員が、夏休みのレポートを採点していたときのことです。本文の中に、意味の分からないローマ字が紛れ込んでいました。
sukoshidakegakuseippoku (=「すこしだけ学生っぽく」)
これは、学生がAIにレポートを書かせる際の指示文(プロンプト)が、誤ってそのままコピーされて残っていたものでした。学生は最初「使っていません」と否定しましたが、証拠を見せられると「本当に恥ずかしいです。誰にも見せないでください」と謝ったそうです。
この教員は、事態を責め立てるのではなく「面白くなっちゃって」と受け止めました。結果として単位は落としたものの、その学生は今も「ここでレポート書いていいですか」と研究室に顔を出しているといいます。
ルール違反を正すことと、関係を切ることは別だ、と気づかされるエピソードです。
03. ゾンビマスクとおばあちゃんと段ボール——待つことで生まれた「大成功」
児童館でのエピソードです。黒ずくめの服装で通っていた男の子(愛称・ブラックサンダー)が、通ううちに少しずつ表情が明るくなっていきました。
ある日、子どもたちが「お化け屋敷をやりたい」と言い出し、チラシまで自分たちで作りました。ところが、そこで準備が止まってしまいます。前日になっても段ボール1枚ありません。
普通なら大人が「準備しなくていいの?」と急かしたくなる場面です。しかし職員は「中止になったら、それも子どもたちが選んだ結果」と考え、あえて何も言わずに待つことにしました。
すると前日の午前中、企画に関わっていなかったはずのブラックサンダーが、ゾンビのお面をかぶって突然現れ、おばあちゃんと一緒にスーパーから段ボールを十数枚運び込み、お化け屋敷づくりを始めたのです。周りの子どもたちも驚くほどの展開でした。
職員は「その瞬間が、本当のお化け屋敷だった」と振り返っています。大人が急かさずに待ったことで、大人の想定を超えた動きが生まれたという一例です。
「待つ」が難しいと感じたら
同じように、正解のない場面でどう待つかを試している先生と話せる場所があります。
04. 校長先生は、入学式より海を選んだ
廃校を使って、子どもたち主体の学校を1日だけ開いたエピソードです。きっかけは、小学生時代に不登校だった子(愛称・チキオ)の「この学校なら通いたい」という一言でした。
開校式は、通常の入学式とはまったく違うものでした。生徒会副会長(愛称・カニキ)が一人ひとりの名前を独特の呼び方で呼び、呼ばれた子が決められた合図で答える——初対面の緊張をほぐすための工夫です。
大きかったのは、「式に参加しなさい」という強制がなかったことです。大勢の前が苦手な子には無理に参加させず、むしろ大人がその子のところへ出向きました。実際、ある子が式の最中に校庭の草むらでバッタ探しを始めたときも、職員は「参加していない」とは考えず、入学式の看板を持って草むらまで迎えに行き、そこを「移動式入学式」にしてしまいました。
肝心の校長(愛称・校長ちゃん)が、式の間どこにも見当たりません。探しに行くと、海で泳いでいました。「気持ちぃぃ!!」と言いながら。
それを見た生徒会副会長は、ぽつりとこう言ったそうです。
「オレは、ああいう校長先生を待っていたんだよね」
学校が子どもに合わせるのではなく、学校が子どものいる場所へ行く。そして大人自身も、自分の時間を過ごしていい——そんな価値観が、この1日には詰まっていました。終わったあと、運営に関わった大人からは「こんなにも目的や評価のない世界で子どもたちと関われたことが幸せだった」という感想が出たそうです。この学校を一番必要としていたのは、子どもより大人だったのかもしれません。
05. 3つに共通していたこと
あおは、この3つのエピソードに共通する姿勢をこう整理しています。
正そうとしない 急かさない まるごと受け止める
特別なことをしているわけではありません。ただ、ちょっと待ってみる。ちょっと笑ってみる。それだけで、思いもよらないところから何かが動き出す——というのが、これらのエピソードが示していることです。
一見「なんでそんなん」に見える行動の奥には、その人なりの理由や時間があります。すぐに「正しい・間違っている」で片づけるのではなく、「なんでそんなんなんだろう?」と笑いながら眺めてみると、今まで見えていなかったものが見えてくる。「なんでそんなん」を怒るのではなく、面白がれる大人を増やしていくこと。それが、この会がやろうとしていることです。
06. 明日から試せること
3つのエピソードから、教室でも試せそうなことを挙げます。
- ルール違反が見つかったとき、正す前に関係を切らないことを先に決める
- 進んでいないように見える活動を、期限の前日まで急かさずに待ってみる
- 「参加していない」ように見える子を、その子のいる場所まで迎えに行くという発想を持つ
- 大人自身も「正解の役割」を演じ続けなくていい、と一度手放してみる
4つ全部やろうとしないでください。 「なんでそんなん」と思う場面が来たら、まず1つ、笑って眺めてみることから始めてみませんか。
「なんでそんなん」を面白がれる仲間を探している方へ
全国の現役中学校教員が集まる無料のLINEオープンチャットがあります。読むだけの参加で構いません。
07. 12月、東京・墨田区でリアルイベント開催予定
「なんでそんなんプロジェクト」が、すみだ五彩の芸術祭に正式参加し、2026年12月5日(土)に「なんでそんなん学会」というイベントを開催予定です。時間・参加方法などの詳細は、なんでそんなんプロジェクト公式サイト(nandesonnan.com)で追って案内されるとのことです。詳細が決まり次第、こちらでも改めてお知らせします。
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「ジャッジをやめて話を聞く」という姿勢は、この記事の④対話の柱と重なります。
同じくあおの実践から、「正解を急がない」授業づくりを扱っています。
執筆者
たけ。現役の中学校教員。担当教科は数学。生徒指導・生徒会を担当。中学校てらすの運営メンバーとして、ホームページを担当しています。この記事は、あおがnoteで公開したイベントレポートをもとに構成しました。
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