同じ教科書を使っているのに、隣のクラスとまるで空気が違う——そんな経験はありませんか。中学校てらす代表のあおが担当する国語の授業では、「授業が楽しい」と答えた生徒が99.6%、「内容が理解できる」と答えた生徒が97%という数字が出ています。この記事では、あおがnoteで公開した実践レポートをもとに、何を仕掛けていたのか、そして卒業した元生徒たちが座談会で明かした「先生の想定を超えた学び」を、現役の中学校教員の視点でほどきます。
01. 結論:仕掛けそのものより、その先にあったもの
先に結論を書きます。
99.6%という数字は、特別な指導技術や最新のIT機器だけで作られたものではありません。 あおがnoteに書いているのは、「目の前の一人を、ひとりの人間として面白がり、対等な言葉を交わす」という、地味で愚直な姿勢です。
ただし、姿勢だけでは再現性がありません。この記事では、その姿勢を支えていた4つの具体的な仕掛けと、卒業生座談会で見えてきた仕掛けの先にあった本当の学びの両方を書きます。「明日、自分の教室で何を変えられるか」を持ち帰ってもらうための記事です。
中学生だった頃、国語の授業を心待ちにした日が何日あったか。思い出してみてください。「教科書を順番に音読して、黒板の文字をノートに写すだけ」「テストに出るから、言われた通りに暗記するだけ」——そういう50分間を過ごした記憶がある方は、少なくないはずです。あおの教室は、そこからの出発でした。
「どうせ勉強が得意な子だけでしょう」「ゲーム感覚で遊ばせているだけで、学力はついていないのでは」——そう思われる方もいるかもしれません。だからこそ、仕掛けの中身と、卒業生の本音の両方を見てほしいと思います。
02. 4つの仕掛け——「楽しいが最強」をどう形にしたか
あおが掲げているテーマは「楽しいが最強」というシンプルな理念です。noteでは、これを実現するための工夫が4つに整理されています。
① 脳を覚醒させる「エンタメ導入」
授業の冒頭に、雑談・じゃんけん・「あっち向いてホイ」・ペアワークといった要素を組み込みます。これは単なる余興ではなく、眠気を吹き飛ばし、集中のスイッチを入れるための仕掛けだとあおは位置づけています。50分の授業を「本題から始める」のではなく、まず身体と気持ちをほぐしてから内容に入る、という順番です。
② 教科書をあそぶ「問い立て型学習」
『故郷』の授業では、本文の途中をあえて生徒に読ませず、最初と最後だけを渡して「間になにがあったか予想しようぜ」と投げかけます。答えを教えるのではなく、生徒自身に問いを立てさせる手法です。『少年の日の思い出』では、大人の価値観も巻き込んだディベートを行っています。教科書を「学ぶ対象」ではなく「遊ぶ素材」として扱う発想です。
③ 思考を形にする「アウトプットの舞台作り」
ノートに書いて終わりではなく、成果物として外に出す場を用意します。全国の「広告大賞」へのキャッチコピー応募、「比喩グランプリ」、1対1の句会、ポスター作り——いずれも「自分の言葉が誰かに届く」という設定がある点が共通しています。
④ 「もっとボケていい」心理的安全性
どんな突拍子もない意見も否定されない空気、スベってもいい許容、間違えても笑いに変えてもらえる安心感。あおの言葉を借りれば、「教科書を学ぶ=暗記するんじゃない。『教科書『で』遊んで学ぶ』んだよ」ということになります。
03. 卒業生座談会で分かった、先生の想定を超えた学び
ここからが、この記事でいちばん紹介したい部分です。高校生になった元生徒たち——「勉強が得意な子も、ちょっと苦手だった子も」参加した座談会で、教師の予想を超えた「リアルな声」が出てきました。
伏線回収としての「導入」
生徒からは「先生の最初の導入、好きだったな〜」という発言に続けて、「最初に聞いた話が、最後の最後に課題として戻ってくる時があるんですよ。その時に『あ!考えが変わった!』ってなるのがすごく面白かった」という声が出ています。教師が意図していた「興味喚起」の先で、生徒たちが体験していたのは、自分の思考がアップデートされる感覚——いわば伏線回収の快感でした。
「ぶっ飛んだ意見」がガチャのように混ざり合う面白さ
あおの授業では、手を挙げた生徒だけでなく、クラスの「ちょっとぶっ飛んだ名物キャラたち」も次々と指名されます。ある生徒は「的確な意見もいいんだけど、ぶっ飛んだやつを当てると、5回に1回くらいめちゃくちゃヤバい(良い)意見が出てくるんですよ!あのガチャガチャみたいな確率で面白い意見が出るのが楽しかった!」と振り返っています。正解を当てる優等生の発表ではなく、多種多様な思考が混ざり合うカオスを、クラス全員でエンタメとして楽しむ——という構図です。
教科書を超えて手に入れた「思いやりの技術」
座談会で最も印象的だったとされるのが、この発言です。「文章の中から裏付けになる根拠を見つけ出す力がついた。それと……中学の3年間で『うまい思いやりの仕方』を覚えた気がします」。クラスで衝突が起きたとき、仲間が落ち込んでいるとき、誰かが主役を奪われたとき——「ただ『頑張れ』と言うのは相手を傷つけるかもしれない」という気づきから、「今のこの人にはどう声をかけるのが正解か」を考える力が育っていた、という振り返りです。国語のディベートや意見のぶつけ合いを通じて鍛えられた他者意識が、人間関係の解像度の高さとして根付いていた、ということになります。
04. 仕掛けの奥にあった3つの鍵
あおはnoteの中で、学びの本質を3つに整理しています。ここは、たけ自身の授業でも繰り返し確認したい視点です。
① ノウハウ(仕掛け)は「きっかけ」に過ぎない
ペアワークやゲーム要素は、生徒の心を惹きつけるための「入口」でしかありません。生徒が本当に価値を感じていたのは、その先にある「自分の感情や意見に、根拠を持って言葉を与える体験」――つまり言語化そのものでした。仕掛けだけを真似ても、この言語化の場が設計されていなければ効果は薄いはずです。
② 威厳を捨てた「伴走者」としての姿勢
「教師=教える側」「生徒=教わる側」という上下関係が、失敗を恐れる緊張感を生み出します。あおのように「人対人」としてフラットに接し、時には一緒にボケて笑い合う姿勢があるからこそ、生徒は自分の素を出し、本気で問いに向き合えるようになる、という指摘です。
③ 「ご機嫌な空気」が学校を動かす当事者を生む
授業で「自分の意見が学校やクラスを面白くする」という体験を得た生徒たちは、生徒会活動や校則改定といった、教室の外の活動へも進んでいきます。すべての始まりは、教室を満たす「ご機嫌な空気」だった、というのがnoteの結論です。
05. 明日から試せること
大きく作り変えなくても、明日から部分的に試せることを挙げます。
- 授業の最初の3分だけ、雑談かペアワークを入れてみる。本題からいきなり始めない
- 発表を当てるとき、正解しそうな生徒だけでなく、あえて予想外の生徒を1人混ぜてみる
- ノートに書かせて終わりにせず、誰かに届く形(掲示・発表・応募)に変える機会を1つだけ作る
- 生徒の意見に対して、まず「面白い」と受け止めてから中身を検討する。否定を先に言わない
- 「なぜそう思ったか」を聞く場面を、正誤の判定より先に置く
5つ全部やろうとしないでください。 1つ選んで、2〜3週間続けるほうが、変化が見えやすくなります。
まとめ
99.6%という数字の裏にあったのは、特別な機材でも一発逆転のテクニックでもありませんでした。エンタメ導入・問い立て型学習・アウトプットの舞台・心理的安全性という4つの仕掛けと、それを支える「伴走者としての姿勢」。そして仕掛けの先で、生徒たちは教科の知識だけでなく、「思いやりの技術」という一生モノの力を育てていました。
同じ教科書を使っていても、教室の空気は変えられます。まず一つ、明日の授業に混ぜてみませんか。
同じように「もっと授業を面白くしたい。でも、どこから手をつければいいか分からない」と感じている先生と話せる場所があります。
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「威厳を捨てた伴走者」の対極にある、管理・規律重視の指導観を扱った記事です。
「ご機嫌な空気が当事者を生む」の先に、生徒会活動へつながった実例です。
途中に出てきた「信頼を育む4つの柱」については、こちらの記事でも詳しく扱っています。
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執筆者
たけ。現役の中学校教員。担当教科は数学。生徒指導・生徒会を担当。中学校てらすの運営メンバーとして、ホームページを担当しています。この記事は、あおがnoteで公開した実践レポートをもとに構成しました。
あお。中学校てらす代表。現役の中学校教員・国語科。今回の実践・座談会の当事者です。
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