生徒会選挙、毎年同じ形で回していませんか。投票率だけを見て「今年もこんなものか」で終わらせていないでしょうか。この記事では、中学校てらす代表のあおが自校で行った「本物の選挙」への切り替えと、そのあとに取ったアンケートで見えてきた数字を、現役の中学校教員の視点で読み解きます。書いているのは、生徒会・特別活動を担当している現役の中学校教員です。
01. 結論:投票率より先に変えたのは「本気度」だった
先に結論を書きます。
生徒会選挙を変えるとき、最初に手をつけるべきは投票の仕組みそのものではありません。 「これは遊びではない」と生徒に伝わる装置を用意することでした。
あおの学校では、実際の選挙で使われている記載台と投票箱を外部から借用し、ポスター掲示板を設置し、投票整理券を配布するところから始めています。電子投票のほうが管理は楽です。それでもあえて、手間のかかる「本物」を選びました。
結果として、アンケートには立候補者の課題意識の向上や、投票する側の当事者意識の変化が数字として現れています。同時に、全員が同じように変わったわけではないという、正直な課題も見えてきました。この記事では、その両方を書きます。
「うちの生徒会選挙も、毎年同じ台本で回している」と感じている先生に向けて書いています。新しい行事を増やす余裕がない学校でも、すでにある行事の”本気度”を上げるという切り口なら、動かせる部分があるはずです。
02. なぜ「電子投票」ではなく「本物の選挙」だったのか
きっかけは、日本財団が行っている「18歳意識調査」の数字でした(※これは中学校てらす独自の調査ではなく、外部の公開調査です)。「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」と答えた日本の若者は45.8%。同じ質問に対して、アメリカは65.6%、中国は83.7%と答えています。
この差を、学校の中でどう縮められるか。あおが着目したのは、生徒会選挙という、多くの学校にすでにある行事でした。新しい取り組みを増やすのではなく、毎年やっていることの「本気度」を上げるという発想です。
具体的にやったことは、次の3つです。
- 本物の記載台と投票箱を借用した(選挙管理委員会などを通じて、実際の選挙で使われている備品を借りる)
- ポスター掲示板を校内に設置した(掲示スペースを候補者ごとに割り当てる)
- 投票整理券を配布した(投票日に、整理券と引き換えに投票してもらう動線を作った)
道具を変えただけ、と言えばそれまでです。ただ、道具が本物になると、周りの大人の関わり方も変わります。「どうせ生徒会選挙だから」という空気のまま道具だけ変えても、この結果にはならなかったはずです。
記載台や投票箱を借りるには、選挙管理委員会や地域の選挙事務担当への相談、貸出の手続き、当日の搬入・返却の調整など、担当する教員の手間は確実に増えます。「本物にする」というのは、突き詰めると「手間を惜しまない」という判断のことです。 そこを大人が引き受ける姿を見せることそのものが、生徒への一つのメッセージになっていたのだと思います。
03. データが証明した「本物の手応え」
やりっぱなしにせず、立候補者・応援者・全校生徒それぞれにアンケートを取っています。結果は次の通りでした(すべてあおのnoteで公開済みの実測値です)。
立候補者・応援者側の変化
- 学校の課題に対する意識が高まった:93.3%
- 本物の機材を使うことで責任感が増した:86.7%
- 「当事者として学校に関わりたい」と感じた:100%
全校生徒側の変化
- 「学校生活を良くするために真剣に考え、行動した」:86.7%
- 本物志向の投票制度そのものへの肯定的評価:91.5%
立候補者側の「当事者として関わりたい」が100%というのは、目を引く数字です。選挙という一過性のイベントが、「自分ごと」として学校に関わる入口になっていたことがうかがえます。
ここで注目したいのは、課題意識(93.3%)と責任感(86.7%)が、必ずしも同じ生徒の中で同時に高まっているわけではないという点です。「学校の課題が見えるようになった」ことと、「本物の道具を扱うことで身が引き締まった」ことは、別の経路で生徒に効いている可能性があります。仕掛けを1つに絞らず、「本気の道具」と「本気の議論」の両方を用意したことが、複数の入口を作った理由かもしれません。
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04. うまくいかなかったこと・見えてきた温度差
ここまでは良い数字ばかりを並べました。ですが、あおのnoteが誠実だと感じたのは、ここから先を隠さずに書いていた点です。
選挙管理委員会(生徒自身が運営する側)から見た評価では、「全校生徒が当事者意識を持てた」と答えたのは28.6%にとどまっています。立候補者側の実感(86〜100%)と、運営側から見た全校生徒の実感(28.6%)のあいだには、大きな温度差がありました。
具体的には、次のような声・状況があったといいます。
- 「演説が長いと、前の人の公約を忘れてしまう」という声
- 一部の生徒に、無効票や「誰でもいい」という態度が見られた
これは、現実の選挙でもよく指摘される構造と同じです。立候補する側・運営する側は本気になりやすい一方で、有権者全員を同じ熱量に引き上げるのは、別の難しさがある。 あおのnoteは、ここを「成功事例」として丸めず、次への課題として書いていました。
この記事で一番大事にしたいのは、この28.6%という数字を隠さなかったことです。 生徒会活動の実践報告は、うまくいった話だけを並べがちです。しかし、「本気の選挙にしたのに、全員には届かなかった」という結果まで公開しているからこそ、次の学校が同じ壁にぶつかったときに、「自分の学校だけが失敗している」と感じずに済みます。成功率100%の実践報告より、うまくいかなかった部分まで書いた実践報告のほうが、他の学校にとって使える情報になる。 これは、中学校てらすが一次情報にこだわる理由そのものでもあります。
05. 学校の事情が違う場合の分岐
「うちの学校は生徒会選挙自体が形骸化していて、それどころではない」という学校もあると思います。規模や地域によって、そのまま真似できない部分もあるはずです。
- 記載台・投票箱を借りられる伝手がない場合:まずはポスター掲示板と投票整理券だけでも、無理なく始められます。道具は一度に全部揃える必要はありません
- 立候補者が集まりにくい学校の場合:いきなり選挙の本気度を上げるより、答え1(生徒会本部の役割説明会を丁寧にやる)から着手したほうが安全です
- すでに電子投票を導入済みの学校の場合:投票方法を後戻りさせる必要はありません。「本物らしさ」は、記載台や投票箱以外の場所(掲示・整理券・当日の演出)でも再現できます
「全部を真似る」のではなく、自分の学校で今すぐ動かせる1点だけを選ぶことが、続けるコツです。道具・演説・アンケートのどれか1つを今年の選挙に足すだけでも、来年に比べる基準ができます。基準ができれば、翌年は「良くなったか」を数字で振り返れるようになります。 これは、記事12で触れた「判断基準を残す」という話にもつながります。
06. 見えてきた次の一手(NEXT)
あおのnoteでは、今回のアンケート結果を受けて、次に試したいことも整理されていました。
1. 一方通行の演説から、対話・Q&Aフォーラム形式へ(「演説が長いと忘れる」への対策)2. 候補者の動画を事前に視聴できる仕組み(デジタル技術の「賢い使い所」を選ぶ)3. 「公約進捗レポート」による、年間を通じた当事者意識の維持(選挙の日だけで終わらせない)
選挙を「1日で終わるイベント」から「1年かけて確かめ続けるもの」に変えていく方向性が見えます。これは、記事12でも書いた「引き継いでも続く生徒会活動」の話と、根っこが同じです。
「公約進捗レポート」という発想は、特に汎用性が高いと感じます。当選した生徒会本部が、自分たちの公約をどこまで実現できているかを、学期ごとにでも全校へ短く報告する。これができると、全校生徒にとって選挙は「投票して終わり」ではなく、「その後も見届けるもの」になります。 28.6%という数字を上げるための、次の一手候補です。
07. 明日から試せること
1. 選挙管理委員会の生徒に、運営側としての感想を聞いてみる。 立候補者側の熱量と、全校生徒側の温度差は、聞かないと見えません。運営した生徒自身が一番、教室の空気を肌で感じています2. 投票整理券を配るだけでも試してみる。 記載台や投票箱がなくても、「本気度」を伝える装置は作れます。印刷して配るだけなら、次の選挙からでも始められます3. 演説を短く分割し、間にメモを取る時間を挟む。 「前の人の公約を忘れる」への直接対策です。1人30秒でも、間に10秒の空白を置くだけで記憶の定着は変わります4. 投票後に、ひとことアンケートを取る。 「良かった」「悪かった」だけでなく、「当事者意識」を聞く一問を混ぜる。数値化しておけば、来年の自分たちが比較できる基準になります5. 無効票・「誰でもいい」票を責めない。 その数字自体が、次の年への課題として使えます。「誰でもいい」と感じさせてしまった理由を考えることが、次の一手につながります
5つ全部やろうとしないでください。 まず1つ、次の選挙で試すところから始めれば十分です。
まとめ
生徒会選挙を「本物」に近づけたことで、立候補者側の当事者意識は数字としてはっきり動きました。同時に、全校生徒全員を同じ熱量に引き上げるのは、道具を変えるだけでは足りないことも見えてきました。成功だけを見せる記事ではなく、うまくいったことと、まだ届いていないことの両方が、あおのnoteには書かれていました。
投票率という一つの数字だけで一喜一憂するのではなく、「誰の、どんな意識が、どう変わったか」を分けて見ていく。そこに、来年への打ち手が隠れています。
日本財団の調査が示した45.8%という数字は、学校の外側にある大きな課題です。一つの学校の生徒会選挙が、その数字を直接動かすことはありません。 それでも、目の前の生徒が「自分の行動で何かが変わった」と一度でも実感できる機会を、学校の中に増やしていくことはできます。今回の実践は、その小さな一つだったのだと思います。
同じように「今のやり方をもう一段本気にしたいけれど、何から手をつければいいか分からない」と感じている先生と、話せる場所があります。
「本気度をどう上げるか」を一緒に考えませんか
中学校てらすには、同じ問いを持った現役の先生が集まっています。
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今回の「本物の選挙」も、1年で終わらせず引き継いでいくための工夫(公約進捗レポートなど)が課題になっています。あわせて読むと、続けるための視点が補えます。
生徒会活動と学級経営は地続きです。担当を一人で抱え込まず、生徒に委ねられる部分を見つけていく視点は、こちらの記事にも通じます。
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